東京高等裁判所 昭和50年(う)1625号 判決
被告人 小池正義
〔抄 録〕
記録によれば、原判決が(弁護人の主張に対する判断)の項において、被告人は本件犯行当時心神喪失ないし心神耗弱の状態にあったとは認められないとした判断は、当裁判所もこれを是認できる。なるほど、被告人はその精神状態について、かつて別件において昭和三五年八月一五日の石橋俊美の鑑定書で精神分裂病と鑑定され、昭和四一年九月三〇日の菅又淳の鑑定書では精神分裂病に罹患していたが、症状は軽く、いわゆる寛解状態にある旨鑑定され、さらに昭和四三年五月二〇日の岩佐金次郎の鑑定書および同人の鑑定人兼証人尋問調書(記録五五二丁)では精神分裂病妄想型の軽快状態にある旨鑑定されたことがいずれも認められる。しかし、他方同じく別件において昭和四四年一一月一五日の金子嗣郎の鑑定書および同人の証人尋問調書(記録五四三丁)では意志薄弱情性貧困、嘘言癖の傾向をもつ精神病質人格であって、是非弁別およびこれに従って行動する能力が減弱していたとは考えられず、偽痴呆の状態であると鑑定され、昭和四五年四月二〇日の西尾友三郎の鑑定書および同人の証人尋問調書(記録五八七丁)では精神病と断ずる根拠に乏しく拘禁予期詐病ないし反応状態にあったと考えられ、欺瞞性の強い精神病質者で心因性詐病性精神病の状態といえるが詐病の傾向が大であると鑑定され、昭和四六年五月一九日の元吉功の鑑定書および同人の証人尋問調書(記録六一〇丁)(以上の別件の鑑定書および尋問調書はすべて写ないし謄本)では空想虚言的欺瞞者特徴の著しい精神病質者であり、妄想性想像と偽痴呆を主徴候とする拘禁反応であるが詐病的要素が極めて濃厚であると鑑定され、本件で逮捕勾留後の昭和四九年八月二九日の市川達郎の精神衛生診断書および同人の原審供述では、欺瞞、顕示欲の傾向の著しい単なる精神病質者であると診断され、原審における昭和五〇年五月一九日の家近一郎の鑑定書では、被告人には本件各犯行時、非精神病性の人格障害(欺瞞性、反社会性の)の存在が考えられるが、精神状態は正常であったと推定され、意図的詐病の可能性が大きく、もともと精神分裂病は発病していなかったものと鑑定されていることが認められ、これらの点と、本件各犯行の手段、方法が極めて計画的かつ巧妙であり、各被害者とも被告人の言動に何ら不審を抱くことなく容易に欺罔されていること、被告人の妻小池理智子の検察官調書によって認められる被告人の平素の行動には不自然な点がないこと、本件犯行直後被告人が警察官に対して述べていることについて不自然、不合理な点が認められないこと、当審における被告人の言動などを合わせ考えると、前掲昭和四三年五月当時およびそれ以前の鑑定書等は、本件の場合被告人の利益に援用しがたく、被告人の本件各犯行は精神分裂病者の行動とは到底考えられず、その行動は詐病ないし拘禁反応によるものとみるのが相当であり、本件各犯行当時被告人は是非善悪の弁別能力およびこれに従って行動する能力が著しく減弱していたとは認められない。弁護人の論旨は理由がない。
(石田 柳原 小林昇)